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それはあの日から真逆の、真夏の出来事だった。

「よろしくお願いします」
そういって母は二人の子供を預けた
その二人の子供の名前は 杏里と遊里


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Unrealistic sister 番外編


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「オバさん行ってきます」
施設ののオバさんに声をかけ、施設を飛び出す
散歩の時間が、私の唯一持てる一人の時間だ

『あの夏の出来事』から何年が経っただろう、
私の体も心もすっかり大人になり、『あの日』から異常なまでに落ち着きを取り戻している
"天魔 杏里"それが私の名前だ

母は私のことを悪魔ちゃんと呼んでいた
一方で妹の遊里を天使ちゃんと可愛がっていた
育児を放棄し、ギャンブルにハマり、
二人を育てるお金がなくなった夏の日、母は私達のことを棄てた

その二年後、遊里は遠月家に引き取られ、
私はもうすぐ、18歳になる…。

憂鬱なことを考えてもなにも感じないよう育っていた私のココロを
たまに客観視しては、虚しく、悲しい
『母のような女になったんだな』と気持ち悪さを感じる

散歩を終え、施設に帰る。私の部屋は施設の一番上の階。
その隅にある部屋に戻りお気に入りのゲームに電源を入れる

ピコピコという電子音がなり、スタート画面が点滅する
最近はこのゲームと平行にインターネットゲームをやり始めた
オンラインで対戦するのは、オフラインのゲームと違い、また新しい楽しさがある
まるで施設の外にでていろんな国の人と繋がっているような楽しさだ

遊里と一緒にゲームをしたことがあった
遊里はゲームが下手で1度も勝てたことが無かった

しばらくゲームをしていると、ノックの音がする
「杏里ちゃん、ちょっとお話があるの」
施設のオバさんだ。
私は部屋に招き入れ、話を聞く
「あのね、杏里ちゃん…もうすぐ18歳でしょ?」
「進路のこと?それならもう決めてあるよ…」
「…そうじゃなくて」
オバさんの顔色が曇る、嫌な予感がした

「杏里ちゃん…このまま貴方を施設に入れるわけにはいかなくなったの」

頭が真っ白になった。私はこれからどう生きていけばいい?
なにをしたらいい?そんな疑問が一気に押し寄せ頭のなかを駆け巡る

「…オバさん、どういうこと?」
「施設では18歳以上の子を預かることはできないの。だから…」
「でていけっていうの!?」
「杏里ちゃん、落ち着いて」

涙が止まらなくなり人生ではじめてといっていいほどの声を荒げた
オバさんを突き飛ばし出て行ってと喚き散らす
私を見るオバさんの目は酷く濁っていた

オバさんが1通の封筒を持って部屋にきた
これをよく読んでと言っていたが正直私は目を通す気になれなかった

嫌々封筒を開封する

「 天魔杏里 天魔遊里 」

そう書かれた二人の写真
笑顔で写る遊里と苦い顔をした私の昔の写真だ。

今すぐにでも破り捨てたい嫌悪感が胸の中からこみ上げる
それを抑え、2枚目の紙を見た
「 遠月遊里 」
今の遊里の住所と名前…学校名…

遊里は今、幸せに暮らしているのだろうか
幸せすぎて私のことなんか忘れているのだろうか…


私の中で
何かが、湧き上がった


それは唐突に 湧き上がったものではなく、
なにかが小さく積み上がっていったものだ


『天使ちゃん、今日も可愛いね。』
母が、遊里を抱きかかえなが言う、近くで父も笑っている
『お前のせいでお父さんは死んだんだ、この悪魔』
父の遺影を持ちながら母が私を叩く
みんな私を見る、 その目は酷く濁っていた


『殺そう』
私の中の悪魔が囁いた

『私は天魔杏里、悪魔にだって天使にだってなれる女』

『なら、天使になって、遊里の人生奪っちゃおうよ』


遊里はたくさん幸せをもらってきた、
今度は私がもらう番だ
 

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